祖国と娘

高速道路をぼんやり走っていた。
ゆるやかなカーブに身を委ねて、上り坂にさしかかる。
フリーウェイが中空に消え、透きとおる青空をバックに、立ち昇る入道雲の天頂が光り輝いている。

放り込んだCDから、懐かしいメロディーが流れはじめた。
青春時代に耳にしたメロディーは、思い出が滲みこんでいる。勝手にヒョコヒョコ飛び出しては、頭の中を勝手に歩き回る。

娘と交わした昨夜の会話が、突然乱入してきた。
「今年の夏は止めようよ」
「ん?」
「原発事故、収束してないし・・・。来年だっていいじゃない」

いままで、日本への帰省を嫌がったことのない娘だった。
放射線量やその範囲、ヨー素、セシューム、ベータ線とガンマ線、被爆線量など簡単に説明したが、電話越しの娘は、頑として聞く耳を持たないようだ。

娘を夏期講座に送る前夜。
「今年は、お盆明けの八月末に行こう。チケットを予約しだい連絡するから」
話を聞いた娘はいつものように楽しみにしている様子だった。
それが、大学に行って、友達と話をしてからなのだろう。放射能の心配が増幅されたようだった。

電話越しの会話が噛み合わず、もどかしい思いをした。娘は言葉に詰まり泣く寸前の様子が手に取るようにわかる。これ以上の無理強いはまずい。

日本はわたしにとっての生まれ故郷。原発事故が起きようと、戦争になろうと、祖国を愛する気持は変わらない。だが娘にとっては、第二の故郷だ。

いっぽう誰がなんと言おうと、娘は、私にとってかけがえのない、いとおしい存在だ。

いままで、自分の考えを押し付けてきた私だが、今回は娘の気持ちに寄りそいたいと思う。
無理に連れて行くのでは、せっかくの家族旅行が台無しになる。

チケットの予約の取り消しは24時間以内。
旅行代理店に予約キャンセルの電話を入れることにした。
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by tanatali3 | 2011-08-18 13:23 | 雑記
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